かもめダイアリー

画:植木まみすけ http://mm9.hatenablog.com/

第8話「ベイビーパニック」2

西田はこのあどけない赤ん坊、宏紀くんを「甥っ子」「親戚の子」としか呼ばなかった。多分、自分が榎さんの弟だということを知られたくないんだ、と柚葉は思う。確かに先生同士が知っているならまだしも、生徒に知られるのは面倒だろう。少なくともこの状況…

第8話「ベイビーパニック」1

今年のゴールデンウィークは飛び石休暇だった。火曜日が休日ののち水木金が平日、土曜から火曜まで休日、となっていて、火曜と木曜に授業のある西田にとっては二度も休日があるおいしい期間……というわけにもいかなかった。 そもそも休日は二度もない。水曜日…

第7.5話「名コンビの理由」

いつものように副部長の碇は部長の塩見の隣に正座すると、本日の練習メニューと人員の振り分けを読み上げた。穏やかな声が茶室を渡っていく。「――今日のメニューは以上です。塩さん、何か連絡はありますか?」「ありません。ハッチさんはありますか?」「あ…

第7話「縁と緑」2

「りっちゃん、唐玉丼ひとつー」「あいよー」 返事と共に、たくましい腕が大釜からつやつやのご飯をプラスチック製の赤いどんぶりに盛っていく。この食堂のおばさんは「りっちゃん」の愛称で親しまれている。真っ赤な口紅がトレードマークで、柚葉はなぜかり…

第7話「縁と緑」1

柚葉は二段ベッドの上で今日マチ子の「センネン画報」を読んでいた。階下の晴はもう寝ている。 読み終わった柚葉は水が飲みたくなってベッドから降りた。一階に降りていこうと電気のついていない階段を降りていく。前までは懐中電灯片手じゃないと歩けなかっ…

第6話「前髪」

西田の第一印象が「いい匂いがする」だったのは置いておくことにして、西田を初めて見た時の印象は一言でいうならこれだった。「前髪切りたい」。「ぶっ」

第5.5話「二人はペディキュア」

「おーい、ヨッシー今暇か?」 その声に西田は殺意を込めて振り返った。 「……職場でその呼び方、マジでやめてくれない?」

第5話「ややこしい二人」4

西田がいつものように大根坂を上っていると、後ろからいつものエンジン音が聞こえてきた。車は西田の隣でぴたっと止まり、ウィンドウが下がる。 「おはよ。乗る?」 「やだ」

第5話「ややこしい二人」3

今日も今日とて柚葉は早起きして一人、乙女坂を上っていた。柚葉が早起きをするようになってから四日。全ては図書室に一番乗りして張り込みするためである。気になったらとことんの柚葉に遊莉と晴は「乙女の狂気」とでも言うべき何かを感じて、柚葉のさせる…

第5話「ややこしい二人」2

それから数日後の昼休み、また柚葉は図書室で西田を目撃した。西田が入ってきたのに気づくなり、柚葉は図鑑や百科事典の棚の陰にしゃがんで隠れた。幸い室内には柚葉の他に生徒はおらず、榎はカウンターにいなかった。

第5話「ややこしい二人」1

「……」 一限が終わるなり、柚葉はふらりと晴の席の後ろに立つと、無言で晴の肩を掴んだ。晴が「ひゃわっ!?」と飛び上がる。「わ、びっくりした……ゆず、どうしたの?」

第4.5話「はじめてのいそけん」

いつものように朝の校門をくぐり外階段をのぼり教員室前を通りすぎたとき、柚葉たちは物々しい光景にぎょっとした。 廊下の真ん中にポールが置かれ二列に区切られている。混雑する廊下を動き回っているのは一分の隙もなくびしっと制服を着こなした生徒会員た…

第4話「My favorite things」3

柚葉はびっくりしてしばらく目の前の顔を見つめていた。――遊莉の顔を。 遊莉も少しびっくりしていた。そして少し呆れた風に言った。「……あんた、何やってんのそこで」

第4話「My favorite things」2

その次の授業から曲に合わせての発声練習が始まった。「オペラ歌手がみんな太ってなきゃできないなんてありえない。発声を正しく行えば体は自然と痩せるもの。声は遠くに飛ばすの。そして、響かせる。それだけ」 境は真っ先にそう言った。

第4話「My favorite things」1

かもめ寮302号室。二段ベッドの二階、枕元のデジタル時計が「7:00」になったとたん、ベッドフレームに引っ掛かけていたヘッドホンから澄んだ歌声が響き出す。 そこに何があるとしても 未開の領域へ君と……

第3.5話「湯飲み」

後日。柚葉はかもめ寮の自室、三〇二号室で晴と一緒に黙々と数学の問題集と格闘していた。このタイプ苦手なんだよなぁ……と思いつつ、柚葉は放課後西田が教えてくれた手順をなぞり少しずつ式を組み立てていく。 (あ、そういえば)

第3話「トップノート」3

「毎日偉いね」 そう言うのは図書室司書の榎だ。最近の柚葉は毎日放課後になると図書室で勉強している。貸出カウンターの向かい、中庭のよく見える、日の当たる窓辺が柚葉の特等席だ。

第3話「トップノート」2

初めの一週間、女子高生の間で密かに西田が話題になった。西田先生ってイケメンじゃない? という話だ。

第3話「トップノート」1

すれ違ったときに、いい匂いがする、と思った。好きな匂いがする。「この人の匂いが好きだ」、ほとんど本能的にそう思った。 柚葉と西田の出会いはそういうものだった。

第2話「はじめの一歩」4

今日は体育のテストの日だ。しかも一限から。柚葉は少し早起きして食堂に向かい、朝ごはんを多めにとった。あんまり好きじゃない牛乳も少し多めに飲む。 ちょうど朝ごはんを食べ終わった頃、降りてきた晴とばったり会った。

第2話「はじめの一歩」3

「柚葉ちゃん、柚葉ちゃん」 下から晴の呼ぶ声で目が覚めた。「今日一限体育だよ! 大丈夫?」

第2話「はじめの一歩」2

体育のドッヂボールは散々だった。なんせ、昔から体育は苦手だったのだ。小さいときから体を動かすことより絵本を読むのが好きだった。運動ができることより勉強ができる方が女の子はバカにされないし。

第2話「はじめの一歩」1

海央館女子高校に程近いところ、乙女坂の途中にある学生寮「かもめ寮」。一年生は三階、二年生は二階、三年生は一階に部屋があり、一・二年生までは二人一部屋、三年生は個室という決まりになっていた。

第1話「フライト」3

入学金振込締め切りの三日前。ついに父親が動いた。 夜十時。仕事から帰り一人で冷たくなったハンバーグに食らいつく父親を横目で見ながら部屋へ逃げようとする柚葉に、父親はこう声をかけた。 「自分の将来の責任はお前にしか取れないんだぞ。わかってるの…

第1話「フライト」2

桜陽高校に落ちた。しかしそれからのことは何も考えていなかった。とにかく桜陽のことで手一杯だった真島家はとりあえず世話になっている塾に相談することにした。塾の一室で塾長と一緒に四人で偏差値表を広げ、ああでもないこうでもないとやりはじめる。柚…

第1話「フライト」1

真島柚葉は窓におでこをくっつけて、その冷たさに静かに目を閉じた。眼下に広がる雲海と飛行機の翼の白さがまぶたの裏からでも眩しかった。そして、ただの意地だけで鹿児島行きを決めたのを、早くもここで後悔し始めていた。 (でもなあ、私がずっとあそこに…

第0話「春は猫と共に去りぬ」

晴は言った。 「ああ、あれはシロだよ」 遊莉にも訊いた。 「シロよ」 まゆはこう言った。 「私はズーイって呼んでるよ。ズーイって月って意味の言葉だって聞いて。何語か忘れたけど」 美々子はにっこり笑って答えた。 「真っ白だから、しろちゃん!」

登場人物一覧【随時更新】

新たな人物が出てくるたびに更新していきます!(最終更新:2016.11/25) 画:植木まみすけ http://mm9.hatenablog.com/

かもめダイアリー基本設定【学校編】

海央館女子高等学校 概略 主人公、真島柚葉らが通う私立高校。略称は「海央館女子」「女子高」など。生徒のことは「女子高生」と呼ぶことが多い。鹿児島市にほど近い錦江湾を望む丘の上の住宅街の中に校舎がある。校舎が長く急な上り坂の頂上にあるので生徒…

もくじ

足を運んでいただきありがとうございます。こちらは小松パラ作の連載小説「かもめダイアリー」の目次ページです。最新話公開ごとにリンクを追加していきますのでここから飛んでいってくださいね。 イラストは植木まみすけさん作です。 ~あらすじ~